シネマレビュー:The Mule

The Mule

公開日:2018年12月14日
ジャンル:ドラマ
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン
上映時間:116分
公式サイト:http://www.themulefilm.net/

<あらすじ>

園芸業を営むアール・ストーンはいつも仕事や仲間を優先し、家族をないがしろにして生きてきた。しかし、事業に失敗し、家は差し押さえられ、年老いた彼は窮地に陥ってしまう。そんな時、孫の婚約パーティで会った男から、車の運転をするだけで報酬がもらえる仕事を紹介される。こうして彼は80代にしてメキシコの麻薬カルテルの運び屋となった。

<レビュー>

クリント・イーストウッドの監督・主演作としては、2008年の「グラン・トリノ」以来10年ぶりの最新作だ。映画出演も2012年の「人生の特等席(Trouble with the Curve)以来となる。

本作は、80代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった実在の退役軍人、レオ・シャープの事件に基づいた物語だ。

家の外では誰にでも良い顔をし、家族のことには見向きもしない典型的な仕事人間。そんな男が年老いて事業に失敗し、どこにも行く場所がなく窮地に陥った時に、麻薬の運び屋という仕事に出会ってしまう。

物語はすべて予想通りに進行していく。名優クリント・イーストウッド演じるアールが、警官や麻薬探知犬をうまく巻くところなどコミカルでさえあった。運び屋として最高齢にして最高の仕事をしてしまった彼は、カルテルのボスからもすっかり気に入られるが、皮肉にもそこから歯車が狂いだす。

王道的なストーリー展開に、劇場で見ていた時は少々単調にさえ感じた。が、しかし、後になって、この作品の凄さを思い知らされることとなった。

時間が経つほどに、じわりじわりといろいろなシーンが頭の中に蘇ってきて、そのたびに新たな感動に包まれるのだ。

一つひとつのシーンや台詞が精巧に考え抜かれ、選び抜かれているからなのだろうか。本当に隙のない、完成度の極めて高い作品と言わざるをえない。

それにしても、かつてこの作品ほどかっこ悪いクリント・イーストウッドがいただろうか。老いぼれて背筋が丸まり、携帯電話を使ったことがなく、テキストが何かを知らず、若者相手に虚勢をはって見せ、強い相手にはすぐにヘコヘコする。言うこと成すことすべて見事なまでに間違いだらけなのだ。当然ながら、このダメ人間ぶりにかつてのダーティハリーの面影は微塵もない。

また、ブラッドリー・クーパーら警察側の人間達がアール達と交錯していくタイミングも絶妙だ。

イーストウッドは積極的に作品出演はしないと語っているようだが、このまま引退などせずに、まだまだ素晴らしい監督作品や演技を見せてくれることを願うばかりだ。