シネマレビュー:At Eternity’s Gate

The Eternity’s Gate

公開日:2018年11月23日
ジャンル:伝記、ドラマ
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザック
上映時間:110分
公式サイト:https://www.ateternitysgate-film.com/

<あらすじ>

自然豊かなフランスの小さな村で、オランダ人画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、ユニークで斬新な色使いで自然を描く作品作りに没頭していた。精神疾患の苦しみ、フランス人画家ポール・ゴーギャンとの共同生活とその破綻などを通して、ファン・ゴッホは作品を超えた永遠とのつながりを考えるようになる。

<レビュー>

寒い、冷たい、疲労、混乱、苦悩、孤独、哀しみ…そんな感情に取りつかれた、つらい110分間であった。

しかし、本作が駄作かというと、その正反対である。スクリーンに投影されたフィンセント・ファン・ゴッホの人生の日々を生々しく痛いほど感じることができる作品だ。

風は強く吹き、そこにイーゼルを立てて絵を描くことさえ、苦行だったのだろう。

破れた靴下を履き続け、形が変形してしまったつぶれそうな靴で野原を歩き続け、土に触れて大地を感じる。それが彼の至福の時間だった。

そんなファン・ゴッホの日常をほぼハンディカメラでとらえており、そのため画面は常に揺れ続けている。揺れる画面を見続けるのが苦手な人は劇場ではなく、自宅などの小さめの画面で鑑賞することをお勧めする。

とはいえ、一見の価値ありの秀作だ。

ファン・ゴッホを演じたウィレム・デフォーは、ヴェネチア国際映画祭で最優秀賞男優賞を受賞。素晴らしい演技なので、この高い評価にもうなづける。

精神疾患のため誰とも真っ当な人間関係を築けないファン・ゴッホの唯一の理解者で支援者だった弟テオとの関係やポール・ゴーギャンとの交友関係、また当時の画壇がかなり保守的だったことも丁寧に描かれていて興味深い。

亡くなってから評価されるアーティストは少なくないが、ファン・ゴッホもその一人だ。一生貧しく暮らした。晩年には評価されていたとも言われているが、その言葉はどれだけ彼の残された片耳に届いていただろうか。

また、彼の死についても諸説がある。本作では大胆な推測に基づいてその死に様が描かれているのだが、そこにシュナーベル監督の強いこだわりが感じられる。

シネマレビュー:The Mule

The Mule

公開日:2018年12月14日
ジャンル:ドラマ
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン
上映時間:116分
公式サイト:http://www.themulefilm.net/

<あらすじ>

園芸業を営むアール・ストーンはいつも仕事や仲間を優先し、家族をないがしろにして生きてきた。しかし、事業に失敗し、家は差し押さえられ、年老いた彼は窮地に陥ってしまう。そんな時、孫の婚約パーティで会った男から、車の運転をするだけで報酬がもらえる仕事を紹介される。こうして彼は80代にしてメキシコの麻薬カルテルの運び屋となった。

<レビュー>

クリント・イーストウッドの監督・主演作としては、2008年の「グラン・トリノ」以来10年ぶりの最新作だ。映画出演も2012年の「人生の特等席(Trouble with the Curve)以来となる。

本作は、80代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった実在の退役軍人、レオ・シャープの事件に基づいた物語だ。

家の外では誰にでも良い顔をし、家族のことには見向きもしない典型的な仕事人間。そんな男が年老いて事業に失敗し、どこにも行く場所がなく窮地に陥った時に、麻薬の運び屋という仕事に出会ってしまう。

物語はすべて予想通りに進行していく。名優クリント・イーストウッド演じるアールが、警官や麻薬探知犬をうまく巻くところなどコミカルでさえあった。運び屋として最高齢にして最高の仕事をしてしまった彼は、カルテルのボスからもすっかり気に入られるが、皮肉にもそこから歯車が狂いだす。

王道的なストーリー展開に、劇場で見ていた時は少々単調にさえ感じた。が、しかし、後になって、この作品の凄さを思い知らされることとなった。

時間が経つほどに、わりじわりといろいろなシーンが頭の中に蘇ってきて、そのたびに新たな感動に包まれるのだ。

一つひとつのシーンや台詞が精巧に考え抜かれ、選び抜かれているからなのだろうか。本当に隙のない、完成度の極めて高い作品と言わざるをえない。

それにしても、かつてこの作品ほどかっこ悪いクリント・イーストウッドがいただろうか。老いぼれて背筋が丸まり、携帯電話を使ったことがなく、テキストが何かを知らず、若者相手に虚勢をはって見せ、強い相手にはすぐにヘコヘコする。言うこと成すことすべて見事なまでに間違いだらけなのだ。当然ながら、このダメ人間ぶりにかつてのダーティハリーの面影は微塵もない。

また、ブラッドリー・クーパーら警察側の人間達がアール達と交錯していくタイミングも絶妙だ。

イーストウッドは積極的に作品出演はしないと語っているようだが、このまま引退などせずに、まだまだ素晴らしい監督作品や演技を見せてくれることを願うばかりだ。