シネマレビュー:Star Wars: The Rise of Skywalker

(c) Lucasfilm

Star Wars: The Rise of Skywalker

公開日:2019年12月20日
ジャンル:アクション、アドベンチャー、ファンタジー
監督:J・J・エイブラムス
上映時間:2時間22分
公式サイト:
https://www.starwars.com/films/star-wars-episode-ix-the-rise-of-skywalker

<あらすじ>

ダース・ベーダーから銀河の支配者になるよう指名されたカイロ・レン。孤島で修行を積んでいたレイはこの時、カイロ・レンとの数奇な因縁を知る由もなかった。銀河の平和が脅かされていることを知ったレイは、再びレイアのもとへ行き、同志達とともに危険な戦いへと挑んでいく。

<レビュー> *ネタバレあり。

続三部作として制作された2015年公開の「フォースの覚醒(Star Wars: The Force Aeakens)、2017年公開の「最後のジェダイ(Star Wars: The Last Jedi)」の完結編となるのが本作「スカイウォーカーの夜明け(Star Wars: The Rise of Skywalker)」だ。エピソード9にあたる本作は、これまでのすべての物語を締めくくる作品にあたる。

監督は続三部作の一作目「フォースの覚醒」でメガホンをとったJ・J・エイブラムス。ルーカス色の強い宇宙戦争のダイナミズムを継承しつつ、家族や仲間を中心軸にしたストーリー展開はスリリングな冒険活劇に深みを与えている。

レイア役のキャリー・フィッシャーは2017年に60歳の若さで急逝し、前作「フォースの覚醒」が遺作となった。が、本作では前作の未使用シーンを利用して登場しており、まるでそこに彼女がいるかのような存在感を放っていた。

物語のハイライトは、レイの素性が明らかになるところだろう。また、本当に戦わなければ行けない時に立ち上がるのは、政府がまとめている軍ではなく一般の市民達であり、そのスピリットは壮絶なパワーを持つということである。

この映画のシーンとは全く関係ないが、今、人類が対峙している環境問題に各国代表の足並みが揃っていないことに相反して、一般市民が声を上げ、その力が増大し世界中に広がっている状況と重なった。人任せにせず、自分のこととして受け止め、立ち向かう勇気を持たなければ、何も変わらない。変えたいのならば、自分が動かなければならないのだ、と。

とにかく、全編にわたり、見どころとツッコミどころ満載の本作は、やはり劇場のIMAX 3Dで鑑賞することをオススメする。

1977年に公開され、42年間にわたって映画ファンを楽しませてくれた銀河を舞台にした壮大な物語「スターウォーズ」。遂に完結を迎えたけれども、私達の中で「スターウォーズ」は永遠に生き続ける。チューバッカが死ななくて本当によかった!

シネマレビュー:Betty – They Say I’m Different

Betty – They say I’m Different

公開日:2017年11月23日
ジャンル:ドキュメンタリー
監督:フィリップ・コックス
上映時間:54分
公式サイト: http://www.nastygalmovie.com

<あらすじ>

伝説のファンクの女王、ベティ・デイヴィスのドキュメンタリー。ノースカロライナの農場で生まれ育ったベティは、ファンクミュージックで独自の世界観を確立した伝説のミュージシャン。マイルス・デイヴィスの妻となり、その人生は最高潮に達しているように見えたら、忽然と姿を消して30年が過ぎた。そのベティの軌跡と今を追いかけた。

<レビュー>

官能的すぎるステージングと独特のボーカルでファンクの女王に君臨したベティ・デイヴィス。

しかし、70年代というミュージックシーンに数々の伝説が生まれていた時代の舞台裏は私達が想像する以上に厳しいものだったようだ。

生み出す音楽だけでなく、ファッションやパフォーマンス、アイデンティティーなども含めてベティ・デイヴィスは間違いなく唯一無二のアーティストと呼ぶにふさわしい存在だった。

その彼女が忽然と姿を消して30年。なぜ彼女が姿を消したのか、本作では彼女のその後の軌跡を追いながら、その理由を解き明かそうとしている。

Art Gallery of Ontarioでわずか3日間の上映だったが、客席は満席。アナログサウンドと対照的な斬新でユニークなビジュアルが折り重なる構成に引き込まれる。

空白の30年の間には日本にも訪れたという。

数々の世界中の映画祭などでちょっとした旋風を巻き起こししているのもベティらしい。

シネマレビュー:Shoplifters(万引き家族)

Shoplifters(万引き家族)

公開日:2018年11月23日
ジャンル:犯罪、ドラマ
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林
上映時間:120分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

<あらすじ>

東京の下町、日雇い労働者の柴田治とクリーニング店で働く治の妻・信代は、息子の祥太、JKリフレ店で働く信代の妹の亜紀、治の母の初枝の5人で暮らしていた。一家は治と信代の給料、初枝の年金、治と祥太による万引きで生計を立てている。しかし、初枝は独居ということになっており、同居している家族がいることは秘密だった。ある冬の日、治は近所の団地の1階にある外廊下で、ひとりの女の子が震えているのを見つけ、見かねて連れて帰ってきてしまう。

<レビュー>

是枝裕和監督は、トロント国際映画祭では 1995年「幻の光」からの常連で、今や マスター部門参加となり、北米にもファンが多い。

常にドキュメンタリータッチのホームドラマがベースで、子役には台本を与えず、現場で口頭説明して本人の言葉で台詞を言ってもらうというのは有名な話だ。

さて、本作もホームドラマだが、少々複雑な設定だ。万引きと不正に受け取っている年金で生計を立てている5人家族は嘘だらけ。そこに一人の女の子が新たな家族として加わるという、実際にあった事件を基にして作られた物語だ。

この物語の複雑性を、ひょうひょうと演じるすべての俳優が素晴らしい。特に、一家で海に遊びに出かけ、独り砂浜で波と戯れる家族たちを見つめる樹木希林演じる初枝の無垢な瞳が美しい。樹木希林は入れ歯をはずして、このシーンに臨んだ。そして、本作が彼女の遺作となった。

社会の中でうまく生きられない人達がいる。悪いことって何なのだろう。社会が決めている正しいことって一体何なのだろうと考えさせられる。

取り調べを受ける安藤サクラ演じる信代の台詞が胸をつく。

悪者はいないというスタンスでいながらも、相変わらず明確な答えを示さない是枝監督は、オーディエンスに自由に考える機会を与えてくる。

2004年の「誰も知らない」以来、一番、是枝監督らしい作品に仕上がっている。

2018年、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール受賞作品。

シネマレビュー:At Eternity’s Gate

The Eternity’s Gate

公開日:2018年11月23日
ジャンル:伝記、ドラマ
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザック
上映時間:110分
公式サイト:https://www.ateternitysgate-film.com/

<あらすじ>

自然豊かなフランスの小さな村で、オランダ人画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、ユニークで斬新な色使いで自然を描く作品作りに没頭していた。精神疾患の苦しみ、フランス人画家ポール・ゴーギャンとの共同生活とその破綻などを通して、ファン・ゴッホは作品を超えた永遠とのつながりを考えるようになる。

<レビュー>

寒い、冷たい、疲労、混乱、苦悩、孤独、哀しみ…そんな感情に取りつかれた、つらい110分間であった。

しかし、本作が駄作かというと、その正反対である。スクリーンに投影されたフィンセント・ファン・ゴッホの人生の日々を生々しく痛いほど感じることができる作品だ。

風は強く吹き、そこにイーゼルを立てて絵を描くことさえ、苦行だったのだろう。

破れた靴下を履き続け、形が変形してしまったつぶれそうな靴で野原を歩き続け、土に触れて大地を感じる。それが彼の至福の時間だった。

そんなファン・ゴッホの日常をほぼハンディカメラでとらえており、そのため画面は常に揺れ続けている。揺れる画面を見続けるのが苦手な人は劇場ではなく、自宅などの小さめの画面で鑑賞することをお勧めする。

とはいえ、一見の価値ありの秀作だ。

ファン・ゴッホを演じたウィレム・デフォーは、ヴェネチア国際映画祭で最優秀賞男優賞を受賞。素晴らしい演技なので、この高い評価にもうなづける。

精神疾患のため誰とも真っ当な人間関係を築けないファン・ゴッホの唯一の理解者で支援者だった弟テオとの関係やポール・ゴーギャンとの交友関係、また当時の画壇がかなり保守的だったことも丁寧に描かれていて興味深い。

亡くなってから評価されるアーティストは少なくないが、ファン・ゴッホもその一人だ。一生貧しく暮らした。晩年には評価されていたとも言われているが、その言葉はどれだけ彼の残された片耳に届いていただろうか。

また、彼の死についても諸説がある。本作では大胆な推測に基づいてその死に様が描かれているのだが、そこにシュナーベル監督の強いこだわりが感じられる。

シネマレビュー:The Mule

The Mule

公開日:2018年12月14日
ジャンル:ドラマ
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン
上映時間:116分
公式サイト:http://www.themulefilm.net/

<あらすじ>

園芸業を営むアール・ストーンはいつも仕事や仲間を優先し、家族をないがしろにして生きてきた。しかし、事業に失敗し、家は差し押さえられ、年老いた彼は窮地に陥ってしまう。そんな時、孫の婚約パーティで会った男から、車の運転をするだけで報酬がもらえる仕事を紹介される。こうして彼は80代にしてメキシコの麻薬カルテルの運び屋となった。

<レビュー>

クリント・イーストウッドの監督・主演作としては、2008年の「グラン・トリノ」以来10年ぶりの最新作だ。映画出演も2012年の「人生の特等席(Trouble with the Curve)以来となる。

本作は、80代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった実在の退役軍人、レオ・シャープの事件に基づいた物語だ。

家の外では誰にでも良い顔をし、家族のことには見向きもしない典型的な仕事人間。そんな男が年老いて事業に失敗し、どこにも行く場所がなく窮地に陥った時に、麻薬の運び屋という仕事に出会ってしまう。

物語はすべて予想通りに進行していく。名優クリント・イーストウッド演じるアールが、警官や麻薬探知犬をうまく巻くところなどコミカルでさえあった。運び屋として最高齢にして最高の仕事をしてしまった彼は、カルテルのボスからもすっかり気に入られるが、皮肉にもそこから歯車が狂いだす。

王道的なストーリー展開に、劇場で見ていた時は少々単調にさえ感じた。が、しかし、後になって、この作品の凄さを思い知らされることとなった。

時間が経つほどに、じわりじわりといろいろなシーンが頭の中に蘇ってきて、そのたびに新たな感動に包まれるのだ。

一つひとつのシーンや台詞が精巧に考え抜かれ、選び抜かれているからなのだろうか。本当に隙のない、完成度の極めて高い作品と言わざるをえない。

それにしても、かつてこの作品ほどかっこ悪いクリント・イーストウッドがいただろうか。老いぼれて背筋が丸まり、携帯電話を使ったことがなく、テキストが何かを知らず、若者相手に虚勢をはって見せ、強い相手にはすぐにヘコヘコする。言うこと成すことすべて見事なまでに間違いだらけなのだ。当然ながら、このダメ人間ぶりにかつてのダーティハリーの面影は微塵もない。

また、ブラッドリー・クーパーら警察側の人間達がアール達と交錯していくタイミングも絶妙だ。

イーストウッドは積極的に作品出演はしないと語っているようだが、このまま引退などせずに、まだまだ素晴らしい監督作品や演技を見せてくれることを願うばかりだ。

シネマレビュー:Bohemian Rhapsody

Bohemian Rhapsody

公開日:2018年10月30日
ジャンル:伝記、ドラマ、ミュージック
監督:ブライアン・シンガー
キャスト:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー
上映時間:134分
公式サイト:https://www.foxmovies.com/movies/bohemian-rhapsody

<あらすじ>

1970年代初頭、ロンドンに住むインド系移民出身のファルーク・バルサラは、自分の音楽を表現できる場所を探すため、ライブ演奏を聞き歩いていた。気に入っていたバンド「スマイル」に声をかけ、自分をボーカルにしないかと持ち掛ける。バルサラはそのバンドの名前を「クイーン」に改名、自らを「フレディ・マーキュリー」と名乗り、ブティックの店員メアリーと同棲生活をしながら、成功への道を辿り始めるが、、、。

<レビュー>

1973年にデビューしたイギリスのロックバンド「クイーン」。ロックの黄金時代を築いたバンドの一つであり、その偉業は今でも楽曲が聞き継がれていることでもうなづける。

しかし、1991年11月23日にボーカルのフレディ・マーキュリーが自らHIVポジティブでエイズ患者である声明を発表し、その翌日、この世を去ってしまった。45歳という若さのロックスターの突然の死は世界中に衝撃を与えた。 2001年にはロックの殿堂入りを果たしたクイーンのアルバムなどのトータルセールスは2億枚ともいわれている。

本作は、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーがブライアン・メイとロジャー・テイラーのバンド「スマイル」にボーカルとして加入し、紆余曲折を経て、1985年に開催された伝説のチャリティコンサート「バンドエイド」に出演するまでを描いた作品だ。

この作品の見どころは、やはりラミ・マレックの演技力の一言に尽きる。ささいなしぐさや表情、ステージングまで、まるでフレディが憑依したかのようだ。顔や体型がそこまで似ていないのに、スクリーンの中のラミはフレディそのものと言っても過言ではない。

何度も否定されながらも自分の音楽を追求する真摯な姿勢、メアリーとの関係、厳格な父親や家族との関係、バンドで成功しながらも満たされない、底なしに広がる暗闇のような孤独感、 HIVポジティブと診断され、エイズを発症した苦悩。 そんなフレディの姿と同時に、ラジオが テレビに凌駕され、レコードがCDなどに変わり、メディアが権力を持ち始めた、 音楽シーンの変遷も浮き彫りにしている。

バンドが「この曲をA面にしないならレコード会社との契約を切る」などといった主張は、今の世の中ではありえない。

それにしても、1975年にリリースされた楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」が時代を超えて生き続ける名曲となっていることに改めて感動する。当時はアルバム「オペラ座の夜」のB面の最後から二番目に収録されていた。オペラとロックの融合、そして6分という長い曲は当時、批評家から酷評されたというが、今でも多くのリスナーを魅了している。この映画を見て、クイーンのファンになる若者が出てきても不思議ではないとさえ思える。

最近、ミュージシャンの友人がこんなことを言っていた。

「ミュージシャンは体を酷使するし、地道な練習や勉強も相当必要な仕事。だから、今時はなりたがる人が少ないんだよ」

だからこそ、人はミュージシャンが命を削るようにして生み出すサウンドやステージの姿を見て感動する。本作を見て、あらためてそう確信した。

シネマレビュー:The Shape of Water

The Shape of Water

公開日:2017年12月8日
ジャンル:アドベンチャー、ドラマ、ファンタジー
監督:ギレルモ・デル・トロ
キャスト:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス
上映時間:124分
公式サイト:http://www.foxsearchlight.com/theshapeofwater/

<あらすじ>

舞台は1960年代のアメリカ。ある日、政府の秘密研究施設に魚人が運び込まれてきた。清掃員のイライザとゼルダは魚人が飼われている水槽がある部屋の清掃担当を任命される。発話障害の孤独な女性イライザは魚人と徐々に交流を深めていくのだが…。

<レビュー>

オープニングから度肝を抜かれ、すべてのシーンが美しく、ギレルモ・デル・トロ監督らしい陰鬱で耽美な独特の世界観を最初から最後まで堪能できる作品だ。

ビクトリア調の家具、映りの悪い巨大な家具調テレビ、ガラス製の鍋の沸騰した湯の中で踊る卵たち、派手な色のキャデラック、劇場型映画館など、登場する部屋、ファッション、小物にいたる隅々にまで味わい深いこだわりを感じさせ、何度も見て新たな発見をしたくなる。

物語は冷戦時代のアメリカで、ノスタルジックで平和な貧しさが漂う。古びた広いアパートは湿気でいっぱいだ。しかし、現代にあふれる使い捨てのものが一切登場せず、人間がより人間らしい。

猫好きにはつらいシーンがある。これは猫と魚の逆説的メタファーなのかもしれない(と思うことにしよう、涙)。

世の中は今でも強い者と弱い者、上の者と下の者、そんなふうに分けられている。しかし、そういうことが揺るぎない愛の前ではなんとちっぽけなことか。

奇才デル・トロ。どんでん返しの終わり方も見事である。まさに大人向けのファンタジー。

観終わって映画館を出た途端、ゆで卵とサンドイッチが食べたくなった。魚人にはあのゆで卵はどんな味がしたのだろうか。