シネマレビュー:Shoplifters(万引き家族)

Shoplifters(万引き家族)

公開日:2018年11月23日
ジャンル:犯罪、ドラマ
監督:是枝裕和
出演:リリー・フランキー、安藤サクラ、樹木希林
上映時間:120分
公式サイト:https://gaga.ne.jp/manbiki-kazoku/

<あらすじ>

東京の下町、日雇い労働者の柴田治とクリーニング店で働く治の妻・信代は、息子の祥太、JKリフレ店で働く信代の妹の亜紀、治の母の初枝の5人で暮らしていた。一家は治と信代の給料、初枝の年金、治と祥太による万引きで生計を立てている。しかし、初枝は独居ということになっており、同居している家族がいることは秘密だった。ある冬の日、治は近所の団地の1階にある外廊下で、ひとりの女の子が震えているのを見つけ、見かねて連れて帰ってきてしまう。

<レビュー>

是枝裕和監督は、トロント国際映画祭では 1995年「幻の光」からの常連で、今や マスター部門参加となり、北米にもファンが多い。

常にドキュメンタリータッチのホームドラマがベースで、子役には台本を与えず、現場で口頭説明して本人の言葉で台詞を言ってもらうというのは有名な話だ。

さて、本作もホームドラマだが、少々複雑な設定だ。万引きと不正に受け取っている年金で生計を立てている5人家族は嘘だらけ。そこに一人の女の子が新たな家族として加わるという、実際にあった事件を基にして作られた物語だ。

この物語の複雑性を、ひょうひょうと演じるすべての俳優が素晴らしい。特に、一家で海に遊びに出かけ、独り砂浜で波と戯れる家族たちを見つめる樹木希林演じる初枝の無垢な瞳が美しい。樹木希林は入れ歯をはずして、このシーンに臨んだ。そして、本作が彼女の遺作となった。

社会の中でうまく生きられない人達がいる。悪いことって何なのだろう。社会が決めている正しいことって一体何なのだろうと考えさせられる。

取り調べを受ける安藤サクラ演じる信代の台詞が胸をつく。

悪者はいないというスタンスでいながらも、相変わらず明確な答えを示さない是枝監督は、オーディエンスに自由に考える機会を与えてくる。

2004年の「誰も知らない」以来、一番、是枝監督らしい作品に仕上がっている。

2018年、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドール受賞作品。

シネマレビュー:At Eternity’s Gate

The Eternity’s Gate

公開日:2018年11月23日
ジャンル:伝記、ドラマ
監督:ジュリアン・シュナーベル
出演:ウィレム・デフォー、ルパート・フレンド、オスカー・アイザック
上映時間:110分
公式サイト:https://www.ateternitysgate-film.com/

<あらすじ>

自然豊かなフランスの小さな村で、オランダ人画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、ユニークで斬新な色使いで自然を描く作品作りに没頭していた。精神疾患の苦しみ、フランス人画家ポール・ゴーギャンとの共同生活とその破綻などを通して、ファン・ゴッホは作品を超えた永遠とのつながりを考えるようになる。

<レビュー>

寒い、冷たい、疲労、混乱、苦悩、孤独、哀しみ…そんな感情に取りつかれた、つらい110分間であった。

しかし、本作が駄作かというと、その正反対である。スクリーンに投影されたフィンセント・ファン・ゴッホの人生の日々を生々しく痛いほど感じることができる作品だ。

風は強く吹き、そこにイーゼルを立てて絵を描くことさえ、苦行だったのだろう。

破れた靴下を履き続け、形が変形してしまったつぶれそうな靴で野原を歩き続け、土に触れて大地を感じる。それが彼の至福の時間だった。

そんなファン・ゴッホの日常をほぼハンディカメラでとらえており、そのため画面は常に揺れ続けている。揺れる画面を見続けるのが苦手な人は劇場ではなく、自宅などの小さめの画面で鑑賞することをお勧めする。

とはいえ、一見の価値ありの秀作だ。

ファン・ゴッホを演じたウィレム・デフォーは、ヴェネチア国際映画祭で最優秀賞男優賞を受賞。素晴らしい演技なので、この高い評価にもうなづける。

精神疾患のため誰とも真っ当な人間関係を築けないファン・ゴッホの唯一の理解者で支援者だった弟テオとの関係やポール・ゴーギャンとの交友関係、また当時の画壇がかなり保守的だったことも丁寧に描かれていて興味深い。

亡くなってから評価されるアーティストは少なくないが、ファン・ゴッホもその一人だ。一生貧しく暮らした。晩年には評価されていたとも言われているが、その言葉はどれだけ彼の残された片耳に届いていただろうか。

また、彼の死についても諸説がある。本作では大胆な推測に基づいてその死に様が描かれているのだが、そこにシュナーベル監督の強いこだわりが感じられる。

シネマレビュー:The Mule

The Mule

公開日:2018年12月14日
ジャンル:ドラマ
監督:クリント・イーストウッド
キャスト:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン
上映時間:116分
公式サイト:http://www.themulefilm.net/

<あらすじ>

園芸業を営むアール・ストーンはいつも仕事や仲間を優先し、家族をないがしろにして生きてきた。しかし、事業に失敗し、家は差し押さえられ、年老いた彼は窮地に陥ってしまう。そんな時、孫の婚約パーティで会った男から、車の運転をするだけで報酬がもらえる仕事を紹介される。こうして彼は80代にしてメキシコの麻薬カルテルの運び屋となった。

<レビュー>

クリント・イーストウッドの監督・主演作としては、2008年の「グラン・トリノ」以来10年ぶりの最新作だ。映画出演も2012年の「人生の特等席(Trouble with the Curve)以来となる。

本作は、80代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった実在の退役軍人、レオ・シャープの事件に基づいた物語だ。

家の外では誰にでも良い顔をし、家族のことには見向きもしない典型的な仕事人間。そんな男が年老いて事業に失敗し、どこにも行く場所がなく窮地に陥った時に、麻薬の運び屋という仕事に出会ってしまう。

物語はすべて予想通りに進行していく。名優クリント・イーストウッド演じるアールが、警官や麻薬探知犬をうまく巻くところなどコミカルでさえあった。運び屋として最高齢にして最高の仕事をしてしまった彼は、カルテルのボスからもすっかり気に入られるが、皮肉にもそこから歯車が狂いだす。

王道的なストーリー展開に、劇場で見ていた時は少々単調にさえ感じた。が、しかし、後になって、この作品の凄さを思い知らされることとなった。

時間が経つほどに、じわりじわりといろいろなシーンが頭の中に蘇ってきて、そのたびに新たな感動に包まれるのだ。

一つひとつのシーンや台詞が精巧に考え抜かれ、選び抜かれているからなのだろうか。本当に隙のない、完成度の極めて高い作品と言わざるをえない。

それにしても、かつてこの作品ほどかっこ悪いクリント・イーストウッドがいただろうか。老いぼれて背筋が丸まり、携帯電話を使ったことがなく、テキストが何かを知らず、若者相手に虚勢をはって見せ、強い相手にはすぐにヘコヘコする。言うこと成すことすべて見事なまでに間違いだらけなのだ。当然ながら、このダメ人間ぶりにかつてのダーティハリーの面影は微塵もない。

また、ブラッドリー・クーパーら警察側の人間達がアール達と交錯していくタイミングも絶妙だ。

イーストウッドは積極的に作品出演はしないと語っているようだが、このまま引退などせずに、まだまだ素晴らしい監督作品や演技を見せてくれることを願うばかりだ。

シネマレビュー:Bohemian Rhapsody

Bohemian Rhapsody

公開日:2018年10月30日
ジャンル:伝記、ドラマ、ミュージック
監督:ブライアン・シンガー
キャスト:ラミ・マレック、ルーシー・ボイントン、グウィリム・リー
上映時間:134分
公式サイト:https://www.foxmovies.com/movies/bohemian-rhapsody

<あらすじ>

1970年代初頭、ロンドンに住むインド系移民出身のファルーク・バルサラは、自分の音楽を表現できる場所を探すため、ライブ演奏を聞き歩いていた。気に入っていたバンド「スマイル」に声をかけ、自分をボーカルにしないかと持ち掛ける。バルサラはそのバンドの名前を「クイーン」に改名、自らを「フレディ・マーキュリー」と名乗り、ブティックの店員メアリーと同棲生活をしながら、成功への道を辿り始めるが、、、。

<レビュー>

1973年にデビューしたイギリスのロックバンド「クイーン」。ロックの黄金時代を築いたバンドの一つであり、その偉業は今でも楽曲が聞き継がれていることでもうなづける。

しかし、1991年11月23日にボーカルのフレディ・マーキュリーが自らHIVポジティブでエイズ患者である声明を発表し、その翌日、この世を去ってしまった。45歳という若さのロックスターの突然の死は世界中に衝撃を与えた。 2001年にはロックの殿堂入りを果たしたクイーンのアルバムなどのトータルセールスは2億枚ともいわれている。

本作は、クイーンのボーカル、フレディ・マーキュリーがブライアン・メイとロジャー・テイラーのバンド「スマイル」にボーカルとして加入し、紆余曲折を経て、1985年に開催された伝説のチャリティコンサート「バンドエイド」に出演するまでを描いた作品だ。

この作品の見どころは、やはりラミ・マレックの演技力の一言に尽きる。ささいなしぐさや表情、ステージングまで、まるでフレディが憑依したかのようだ。顔や体型がそこまで似ていないのに、スクリーンの中のラミはフレディそのものと言っても過言ではない。

何度も否定されながらも自分の音楽を追求する真摯な姿勢、メアリーとの関係、厳格な父親や家族との関係、バンドで成功しながらも満たされない、底なしに広がる暗闇のような孤独感、 HIVポジティブと診断され、エイズを発症した苦悩。 そんなフレディの姿と同時に、ラジオが テレビに凌駕され、レコードがCDなどに変わり、メディアが権力を持ち始めた、 音楽シーンの変遷も浮き彫りにしている。

バンドが「この曲をA面にしないならレコード会社との契約を切る」などといった主張は、今の世の中ではありえない。

それにしても、1975年にリリースされた楽曲「ボヘミアン・ラプソディ」が時代を超えて生き続ける名曲となっていることに改めて感動する。当時はアルバム「オペラ座の夜」のB面の最後から二番目に収録されていた。オペラとロックの融合、そして6分という長い曲は当時、批評家から酷評されたというが、今でも多くのリスナーを魅了している。この映画を見て、クイーンのファンになる若者が出てきても不思議ではないとさえ思える。

最近、ミュージシャンの友人がこんなことを言っていた。

「ミュージシャンは体を酷使するし、地道な練習や勉強も相当必要な仕事。だから、今時はなりたがる人が少ないんだよ」

だからこそ、人はミュージシャンが命を削るようにして生み出すサウンドやステージの姿を見て感動する。本作を見て、あらためてそう確信した。

秋色のトロント

トロント大学周辺が秋色に染まっています。

落ち葉も朝夕の冷え込みを寄り添って耐え、、、

リスも食べ物の確保に余念がありません。


トロント国際映画祭、開催中

2018年のトロント国際映画祭は9月6日~16日まで開催。世界中の映画関係者がトロントに集結!街を歩けばセレブが!話題作に長蛇の列が!ワールドプレミア作品も多数あり!

DIRECTV House presented by AT&T
Friday, September 7, 2018, photo by Charley Galley/Getty Images

 

THE ART OF BANKSY トロントで開催中!

イギリスの覆面芸術家BANKSYの展覧会「THE ART OF BANKSY」がトロントで8月13日まで開催中だ。

BANKSYは左翼的で資本主義や国家主義を痛烈に風刺した作品を、世界各地にゲリラ的に描き展示するストリートアーティストだ。神出鬼没ながら、その正体はいまだに明らかになっていない。

90年初頭に活動を開始し、ステンシルとスプレー塗料を使う独特の手法で描かれた作品の価値はいまや数十万ドルともそれ以上とも言われている。

本展覧会では、大英博物館も認めるBANKSYの作品群を8セクションに分けて展示。壮大で破天荒で強烈な風刺のきいた作品群はまさに圧巻。グラフィティアートに興味がある人は必見だ。

公式サイト:https://www.banksyexhibit.com/

久保田一竹展、トロントで開催!

日本の染色工芸家、久保田一竹の展覧会が2月7日から5月13日まで、トロントのTextile Museum of Canadaで開催されました。

「光のシンフォニー」と呼ばれる久保田一竹の作品群は四季と宇宙を表現しています。

室町時代の「辻が花染め」を「一竹辻が花」として発展させました。その作業行程の展示もありましたが、気の遠くなるほど長く、一つひとつに細やかな神経を必要とする作業です。魂を削り、命をかける作業と言っても過言ではありません。

富士山をモチーフにした作品も多くみられました。

日本の久保田一竹美術館は富士山をのぞむロケーションにあるとか。いつか行ってみたいものです。

5着の着物をキャンバスにした連作。言葉を失うほどの美しさ。色、構図、染色技術の素晴らしさは息を飲むほど。そして、作品から醸し出される荘厳な空気が時代を超えて息づいています。

冬が着物の中に訪れています。展示は背面を見せる形でしたが、この作品はうしろにまわると前面を見ることができました。前面も素晴らしいものでした。

 

このテキスタイル博物館は他の博物館に比べて小さいのですが、個性豊かで秀逸な展覧会を常時行っています。

一般的なアートとは一味違うテキスタイルの世界は、触れれば触れるほど、その奥深さが感じられ、身近なモチーフだけに私達の暮らしを豊かにしてくれるアートです。是非、一度足を運んでみてください!

http://www.textilemuseum.ca/home